「いたいワン」「つらいニャー」とは言えない犬や猫の痛みをどう判断するかー。そんな研究を進める「動物いたみ研究会」 (委員長・西村亮平東大大学院助教授)が、犬の急な痛みを動作やしぐさなどから判断する国内初の5段階の基準をまとめた。 獣医師らの治療に生かすだけでなく、飼い主がペットたちの異変に気づく目安としても期待される。

           犬のしぐさで5段階評価

 基準をまとめたのは、同研究会の永延清和・宮崎大農学部助教授らのグループ。大阪市内で11月18日から20日迄開かれた 動物臨床医学会で発表された。
 海外には数種類の基準があるが、痛みの表現のニュアンスの違いなどから簡単には使えないのが実情という。このため、 獣医師が医療現場で手軽に評価できる日本語の必要と取り組んだ。
 骨折や手術後などの犬の急性痛を対象に、「食欲の廃絶」「背中を丸めている」というような痛みのしぐさなど43項目を リストアップ。さらに痛みの強さを5段階に分けるため、獣医師53人にアンケートで数値化してもらい、レベルを分けた。
 痛みが最も強いレベル4は8項目あり、中でも最も強い表現が「持続的に鳴きわめく」。レベル3は「心拍数増加」など 13項目、レベル2が「じっとしている」など9項目、レベル1は「尾を振らない」などの13項目。痛みの兆候が見られなければ レベル0となる。
 判定は、各レベルの該当項目をチェックし、該当項目の多さだけにとらわれずに総合的に判断する。大げさに痛がる、我慢強いなど、 性格の違いも考慮する事が肝要という。
 「飼い主にも分かりやすい表現が多いが、痛みと無関係に現れる項目もある。獣医師による総合的な判断が必要」と永延助教授は 話す。今後は、この基準を医療現場で検証してもらって修正していき、慢性の痛みや、猫など他の動物での基準づくりにも取り組む 考えだ。
 ただ、慢性痛は微妙なしぐさが多く、急性よりも判断が難しい。西村助教授は「判断には飼い主からの情報が重要。動物が 不規則な動きや普段と違う動きをした場合、痛みを感じている可能性がある。動物のしぐさをよく観察し、ケアをしてほしい」 と話す。

       「動物も家族」の意識  痛みの研究を後押し

 研究会は2年前、獣医師や学者、ペット企業関係者らが集まって設立された。きっかけは、動物の痛みに対する飼い主や 獣医師の意識の高まりだ。
 動物は本来から痛さを隠す傾向があるという。特に飼い主には痛さを訴えても、見知らぬ獣医師らには弱みを見せようとせず、 獣医学では痛みについて関心が薄かったのが実情だ。
 しかし、犬や猫などペットを家族の一員と考える飼い主が増えてきたことが、こうした痛み研究を後押しした。西村助教授は 「がんの場合だと、動物は急激な痛みを繰り返し、それを見ている飼い主は何も出来ないつらさ、苦痛を感じ、罪悪感に さいなまれる。飼い主のためにも、動物の痛みを少しでも和らげる必要がある」と話す。
 研究会によると、犬の寿命は10才前後とされてきたが、現在飼われている犬の4割を7才以上が占め、犬世界も「高齢化社会」。 それに伴い、関節炎などの病気が増えている。

 2005年12月2日 朝日新聞 生活面  新井正之記者の記事を抜粋させていただきました。